← トップページに戻る
日記

地方銀行のイノベーションと役割の転換について

地方銀行は「お金を貸す場所」のままでいいのか

――縮小する地域で、金融に求められる次の役割

私はかなりの中国好きで、これまで上海周辺だけでなく、内陸部や東北部を含むいくつもの都市を訪れてきた。

もちろん、それぞれの街はまったく違う。気候も産業も文化も、都市の成り立ちも大きく異なる。

それでも、どこへ行っても共通して感じるものがあった。

モノやサービスが、その都市や地方の境界線をあまり気にせず動いている感覚である。

その背景にはAlibabaやPinduoduoのような巨大な民間プラットフォーム、物流網、決済インフラなど、様々な主体が存在しているのだろう。

中国の仕組みをそのまま日本へ持ってくればいい、という話ではない。

私が面白いと感じたのは、経済の境界線に地理的な隔たりがあまり絡んでいなかったという点に集約される。

行政区分として地域は分かれていても、経済まで同じ境界線で区切る必要はない。

そして日本へ戻って地方都市を見ていると、妙な対照を感じることがある。

日本の地方にも面白い企業はたくさんある。妙にニッチな分野で高い技術を持っていたり、その地域では当たり前すぎて誰も気にしていない商品が、外から見るとかなり珍しかったりする。

それなのに、

「この会社の商品をもっと遠くへ売れないのだろうか」

「この技術を欲しがっている別業界の会社とつなげられないのだろうか」

と思う企業が、地域の中で静かに商売を続けていることも多い。

企業側に意欲がない場合もあるだろう。しかし、小さな会社が自力で市場調査をして、取引先を探して、資金を用意して、人を採用して、新規事業まで考えるのはかなり難しい。

では、その間を誰が埋めるのか。

そこで気になったのが、地方銀行だった。

銀行の仕事は何か、と聞かれれば、多くの人は「預金を集めて、お金を貸すこと」と答えると思う。

もちろん、それは今も銀行の重要な仕事だ。

しかし、人口が減り、企業の後継者も減り、人手不足が常態化しつつある地方で、これからも「預金を集め、融資する」というモデルだけで地域経済を支え続けられるのだろうか。

もしかすると、これからの地方銀行に必要なのは「より上手にお金を貸すこと」ではない。

地域そのものを成長させる能力なのかもしれない。

1. 「融資する銀行」から「投資を設計する銀行」へ

日本企業の内部留保が増えている、という話はよく聞く。

ただし、内部留保は、その金額がそのまま銀行口座に眠っているわけではない。設備や有価証券など別の資産になっていることもあるため、「内部留保を全部投資に回せばいい」というほど単純な話ではない。

重要なのは、企業が持つ資金や経営資源が、将来の成長のために有効に使われているかどうかだ。

ここで地方銀行の出番がある。

地方の中小企業にとって、新しい設備への投資、新規事業への参入、海外展開といった意思決定はかなり重い。

仮に社内に資金があったとしても、「本当に投資して大丈夫なのか」「どの程度のリスクを取れるのか」「融資以外に資金調達の方法はないのか」といった判断まで自社だけで行うのは難しい。

そこで銀行が、単に「必要ならお金を貸します」と待つのではなく、企業の財務・市場・事業計画を一緒に見ながら、

どこに、どれだけ、どのような形で資金を投入すべきかを設計する。

融資だけでなく、投資家との接続、事業承継、M&Aなども含め、企業ごとに適した方法を考える。

つまり、「Loan=貸す」から「Finance=資金の使い方を設計する」への転換である。

近年は、不動産担保や経営者保証だけではなく、事業そのものの将来性をより重視して資金を供給しようとする制度整備も進んでいる。

方向性としては、

「この会社は何を持っているか」だけではなく、「これから何を生み出せる会社なのか」を見る金融

へ近づいていると言える。

そして地方銀行が持つ大きな資産の一つは、何十年にもわたって地域企業と取引してきたことで蓄積された、

「この会社が何を得意としていて、誰が経営していて、どのような取引関係を持っているか」という情報

ではないだろうか。

この情報を、単なる融資審査だけに使うのはもったいない。

2. 「地元企業を守る」から「市場を広げる」へ

地方銀行には昔から「地元企業を支える」という役割がある。

しかし、人口そのものが減少していく地域では、「地元で商売を続ける企業を地元で支える」というモデルだけでは、市場全体が縮小してしまう。

地元を大切にすることと、地元だけで商売することは同じではない。

これから重要になるのは、

地域企業の市場を、地域の外へ広げること

だと思う。

これは必ずしも大規模な海外進出を意味しない。

越境ECで商品を販売する。

訪日外国人向けの商品を開発する。

国内の別地域へ販路を広げる。

これまで取引のなかった業界へ技術を売る。

海外企業から部品や人材を調達する。

すべて同じ方向にある。

しかし、中小企業が単独で新しい市場を調査し、取引先を探し、制度や商習慣を理解し、必要な資金まで準備するのは難しい。

そこで地方銀行が、海外金融機関、JETRO、商社、自治体、大学、ほかの地域の企業などと連携できれば、単なる資金提供者ではなくなる。

地域企業と、新しい市場をつなぐコーディネーターになる。

もちろん、すべての企業を外へ出せばよいわけではない。

地域密着型のサービスもあるし、既存市場に十分な需要がある企業もある。

重要なのは海外進出そのものではなく、

「この市場しかない」という状態から企業を解放すること

だと思う。

人口が減る地域で企業を守る方法は、地域内の需要を奪い合うことだけではない。

市場そのものを広げればいい。

3. 賃上げを「融資」で乗り切るのではなく、生産性を上げる

そして今、地方企業に直接迫っている課題の一つが人件費の上昇である。

賃金が上がること自体と、その賃金を企業が継続的に支払えることは別問題だ。

例えば、人件費が増えた企業に銀行が運転資金を貸せば、短期的には乗り切れるかもしれない。

しかし、生産性や利益率が変わらないまま借入金だけが増えれば、それは問題を先送りしているだけである。

だからこそ、ここでも地方銀行の役割を「融資」より広く考える必要がある。

例えば、

  • 紙とExcel中心だった業務をデジタル化する
  • 在庫・受発注データを分析して無駄を減らす
  • 省人化設備を導入する
  • 商品価格を適切に見直す
  • 採算の低い事業から撤退する
  • 企業同士の統合や事業承継を支援する
  • 新しい販路を開拓する

といった経営そのものへの支援である。

銀行員がプログラムを書いて業務システムを開発する必要はない。

しかし、

「この会社なら、ここをデジタル化すれば生産性が上がりそうだ」

「この会社とこのIT企業をつなげれば解決できそうだ」

というところまで踏み込めれば、銀行が持つ企業情報とネットワークはかなり強力な武器になる。

DXも事業承継も人材不足への対応も、銀行がすべて自前で解決する必要はない。

課題を見つけ、それを解決できる人につなぐ。

その機能だけでも、従来の融資とはかなり違う価値になる。

4. 地方銀行は「地域のOS」になれるか

ここまで考えると、地方銀行という存在がかなり違って見えてくる。

企業への融資。

事業承継。

M&A。

DX支援。

海外展開。

人材紹介。

投資。

まちづくり。

これらを一つずつ見ると別々の業務だが、共通しているものがある。

地域の中に散らばっている「企業・人・金・情報」を組み合わせる仕事である。

銀行ほど、この四つに同時に接触している組織は意外と少ない。

だから私は、これからの地方銀行は一種の**「地域のOS」**のような存在になれるのではないかと思っている。

OSそのものが文章を書いたり、絵を描いたりするわけではない。

しかし、その上で様々なソフトウェアが動き、資源をやり取りできる環境を作っている。

地方銀行も同じだ。

自らあらゆるサービスを提供するのではなく、地域経済の基盤として、必要なプレイヤーが出会える環境を作る。

その意味では、銀行自身が何でもできる必要はない。

むしろ、

誰が何をできるのかを知っていること

の方が重要になる。

一方で、地方銀行自身も安全な立場にいるわけではない。

人口が減れば、企業も顧客も減る。

企業が撤退すれば融資先が減り、地域の所得が減れば預金や資産形成の市場も縮小する。

つまり、これは社会貢献の話だけではない。

銀行自身が生き残るためにも、地域経済そのものを強くする必要がある。

地方銀行と地域経済は、かなり強い運命共同体なのである。

5. では、どうすれば「攻める銀行」になれるのか

ここまで書いておいて、一つ大きな問題が残る。

「地方銀行はもっと積極的に企業を支援するべきだ」

と言うだけなら簡単だ。

しかし、そもそも銀行という組織は、本質的に慎重である。

人から預かったお金を扱い、信用を基盤として成り立っている以上、それは欠点ではない。むしろ銀行が思いつきでリスクを取り始めたら、その方が困る。

だから、必要なのは単純な「意識改革」ではないと思う。

攻めても壊れない構造をつくること。

こちらの方が重要ではないだろうか。

「本体」と「実験部隊」を分けてしまう

例えば、一つの銀行組織ですべてを同じルールで運営する必要はない。

預金、決済、通常融資などを担う銀行本体には、今まで通り高い安定性を求める。

一方で、別会社や専門部署には一定額の予算を与えて、

「この範囲なら失敗してもよい」

というルールで動かす。

新規事業、DX、海外市場開拓、スタートアップ投資、地域商社といった仕事はこちらで試す。

個人的には、地方銀行の中に**「地域版ベンチャースタジオ」**のような場所があっても面白いと思う。

地域企業からアイデアや課題を集め、銀行員、エンジニア、デザイナー、大学、商社などを組み合わせ、実際に小さく事業を試してしまう。

うまくいけば拡大する。

ダメなら撤退する。

銀行をベンチャー企業に変える必要はない。

銀行の横に、ベンチャー企業のように動けるエンジンを載せればいい。

銀行員を「銀行の中だけ」で育てない

次に必要なのは、人材だと思う。

海外展開を支援する人が、一度も海外ビジネスに触れたことがない。

DXを提案する人が、実際のシステム導入を経験したことがない。

新規事業を評価する人が、一度もゼロから事業を作ったことがない。

これでは限界がある。

だったら、銀行員をもっと外へ出してしまえばいい。

スタートアップへ出向する。

製造業の現場へ入る。

IT企業のプロジェクトに参加する。

海外企業や金融機関で働く。

逆に外部から、エンジニア、商社経験者、起業家、デザイナーなどを銀行へ入れる。

銀行員という職業そのものを、

「金融商品の専門家」から「企業を動かす専門家」へ広げる。

そのくらいの変化があってもいいと思う。

KPIを「いくら貸したか」から変える

もっと根本的には、評価の仕方も変える必要がある。

仮に担当者が地域企業に新しい販路を紹介し、その企業の売上が大きく伸びたとする。

しかし、その案件で銀行自身の融資残高が増えなければ成果として評価されない。

そんな仕組みなら、誰も本気で融資以外の支援をしなくなる。

そこで、かなり大胆な話ではあるが、

銀行のKPIに「取引先がどれだけ強くなったか」を入れてしまう。

域外売上高、生産性、付加価値、新規取引先数、新規事業売上、事業承継の成功などを見る。

銀行の仕事を、

「自社の商品をどれだけ売ったか」

だけではなく、

「顧客企業の価値をどれだけ増やしたか」

でも評価する。

もちろん、銀行の支援による効果だけを正確に切り分けるのは難しい。

しかし、測定が難しいことと、測らなくてよいことは別だ。

評価制度を変えなければ、行動も変わらない。

「失敗しなかった人」だけを評価しない

そして、おそらく一番難しいのが失敗の扱いだ。

攻める以上、必ず失敗する。

新しい販路が開けない。

導入したシステムが定着しない。

新規事業が撤退する。

紹介した企業同士の協業がうまくいかない。

こうした失敗を一件ずつ「事故」として処理していたら、誰も新しいことをしなくなる。

何もしない人間ほど失敗しないからだ。

だから実験部門については、

「何件成功したか」だけでなく、

「何回、合理的な仮説に基づいて挑戦したか」

も評価していいと思う。

10件試して7件失敗しても、残りの3件から大きな成果が生まれるなら、それは十分意味がある。

もちろん、通常の融資業務まで同じ考え方で運営するべきではない。

だからこそ、最初から「失敗できる場所」を分けておく必要がある。

地方銀行同士をつないでしまう

そして最後に、かなり面白い可能性があると思っている。

各地方銀行は、それぞれの地域企業について非常に深い情報を持っている。

ならば、そのネットワーク同士をつなげられないだろうか。

「こちらにはこの技術を持つ企業がある」

「こちらにはその技術を必要としている企業がある」

「この地域ではこの商品が売れる」

といった情報を、地域を越えて結び付ける。

極端に言えば、全国の地方銀行が持つ企業ネットワークを相互接続できれば、それ自体が巨大なBtoBプラットフォームになる。

地方銀行同士は競合でもある。

しかし、すべての地域がそれぞれ独立して同じ機能を抱える必要はない。

地域密着とは、地域に閉じこもることではない。

地域の企業を誰よりも深く知っているからこそ、その会社を外へ紹介できる。

これは巨大IT企業とはまったく違う方法で、日本の地域同士をつなぐインフラになり得ると思う。

「守るために、攻める」

最初の話に戻る。

中国各地を歩いていて私が感じたのは、「中国の方がすごい」という単純な話ではなかった。

経済は、行政上の境界線よりずっと広いところで動ける。

その仕組みを作っているのがIT企業なのか、物流なのか、金融なのか、行政なのか。

おそらく実際には、そのすべてなのだろう。

私が面白いと思ったのは、地域の外につながるための経路が社会の中に多数存在していることだった。

地方に会社があるからといって、地方だけを相手に商売する必要はない。

地域で売れないなら、別の地域へ売ってもいい。

国内で難しいなら、海外へ持っていってもいい。

逆に、外の技術や人材や資本を地域へ持ってきてもいい。

しかし、一社だけでそれを実行するのは難しい。

だから、その接続を手伝う存在が必要になる。

地方銀行に商社になってほしいわけではない。

コンサル会社になってほしいわけでもない。

ベンチャーキャピタルになってほしいわけでもない。

それらを必要に応じて組み合わせられる存在になってほしいのだ。

商社のように市場を探し、

コンサルのように企業の問題を考え、

投資家のように将来性を見て、

銀行として資金を供給する。

そして、そのすべてを地域企業について蓄積してきた情報の上で行う。

地方銀行には、預金、決済、融資といった金融インフラを守る役割も当然残り続ける。

だから、守りを捨てるわけではない。

むしろ、

地域を守り続けるために、攻める必要がある。

企業を取り巻く問題が金融だけで完結しなくなった以上、銀行の仕事も金融だけでは完結しなくなる。

「困ったらお金を貸します」という銀行から、

「困る前に一緒に会社の未来を考えます」という銀行へ。

さらにその先には、

「この地域には、まだこんな可能性があります」と外の世界に向かって言える銀行

があってもいい。

そのためには、銀行自身も変わらなければならない。

外へ人を送り、外から人を入れ、一定の失敗を許し、融資残高以外の成果を評価し、地域を越えて企業をつなぐ。

銀行の安全性を壊すのではなく、安全性を守ったまま、別の場所に挑戦できるエンジンを載せる。

地方銀行が「地域の中でお金を回す場所」から、「地域と地域、そして地域と世界をつなぎ、新しい商売が生まれる場所」へ変われるか。

そこまで行って初めて、「地方銀行はこれから何のために存在するのか」という問いに、新しい答えが出てくるのではないだろうか。